ボーダレス・アートミュージアムNO-MAに想うアートへの眼差し

ボーダレス・アートミュージアムNO-MAで開催中の企画展『飛行する記憶』を訪れる。ここに行く時はいつも、前の日の晩に滋賀在住の友人宅に泊めさせてもらっている。感謝。
4組のコラボレーション展。アーティストとして社会に生きる人(生きた人)と障害者の作品が、記憶のに関する4種類のテーマにおいて同じ空間に展示されている。植田正治と三橋精樹による「記憶の光景」が印象深い。共にほぼ全てモノクロームな光景の作品であり、一方は写真、他方は鉛筆画による表現なのだが、驚いたのはその白・黒の割合の差で、圧倒的に三橋精樹の鉛筆画の方が黒の割合が高い。黒をベースにして白い箇所を際立たせているように思える(実際に際立っている)が、近づいてよく見ると、黒の中に筆跡による凹凸で描き出された光景が新たに立ちあがってくる。絵の裏にびっしりと書かれた情報が、この黒い世界の中に書き記されているのだろう。人・モノが絶妙に配置された植田正治のモノクロ写真が周囲の壁に掛けられ、三橋精樹の白と黒と黒の絵画が天井から吊るされて部屋の中で浮かんでいるこの空間は素晴らしい。そして、旧吉田邸での3名による展示も興味深い。展示構成は日比野克彦によるディレクションで、浮遊する記憶というテーマを上手く空間で表現している。様々な箇所の天井から吊るされた裸電球が点いたり消えたりして、鑑賞者は通常の鑑賞(特に絵画)ができない。人は全ての情報を均等に記憶しているわけではなく、鮮烈な記憶も時間と共に薄れるし、あまり印象的でなかったはずの記憶が何かのきっかけで鮮明に浮かび上がってくることもある。そんな人間の記憶あいまいさを展示空間の中で表現していたと感じる。コラボレートした2作家の膨張された表現(これらがまた素晴らしい)を見て、今回の構成を思いついたのかも知れない。日比野さんの作品のFUNEは本当に揺れてた。
残りのコラボレーションも驚かされ続け、ここには書き切れないくらい相当良い企画展にもかかわらず来館者が少なかったことを気がかりに想い、長々と書いた次第である。会期は12月7日までなので、興味のわいた方、お時間のある方は是非訪れてみてほしい。今関西で開催中の展覧会では一番面白いと思っている。それに、日比野克彦の作品を関西で観れる貴重な機会でもあるし、コラボレーションではあるものの、古民家を使った日比野克彦インスタレーション作品と考えても語弊にはならない気がする。観覧料もワンコイン、500円と何と安いことでしょう。
これらは会場となっているNO-MAと旧吉田邸の外観。建築的にも訪れる価値は十分にあります。
  

観終わった後は、尾賀商店内の喫茶店でコーヒーでも。2階のこの空間は僕の喫茶店ランキング1位です。