7日:松本→安曇野→小淵沢→東京

7日、6時起床。朝食前に散歩。松本市美術館の外観や草間彌生の彫刻を見た後、まつもと市民芸術館の外周を歩く。歩きながら、この規模だと僕が魅力だと思う伊東豊雄の建築の良さが出ないように感じる。それは建物としての力強さのようなものなのだが、直線のビルが立ち並ぶ中で曲線のあれだけ大きな劇場が存在するのは良くも悪くも存在感があって、曲線とランダムな開口によるデザインだけが都市に対して浮かび上がってしまっている印象を受ける。駅からまっすぐ伸びる大した特徴の無い通りに構える劇場の設計、何処から手がかりをつくっていったのだろうか。内部は、同じく伊東豊雄設計の座高円寺と比較してみると、多機能化された座高円寺の空間がそのまま引き伸ばされた印象を受けてしまう。エントランスから2階のホール入口へ続く長い階段のアプローチや、2階の広々としたメインロビーは、その引き伸ばされた印象から魅力をそれほど感じられない。ただ、時間の経過的には、まつもと市民芸術館→座高円寺の順なので、まつもと市民芸術館のプログラムを、高円寺の小さな敷地の中で凝縮させたと言う方が正しいのだろうが。夜に屋上の庭園で佇んでいるのは、静かで気持ち良かった。
    
ホテルに戻って朝食。電車に乗って信濃松川駅から徒歩30分ほどで安曇野ちひろ美術館へ。長野の山を眺めながら田畑に囲まれた道を歩いていると、切妻屋根の数棟の建物見える。高さがなく、そびえるのでなはくて大地に根差し、風景と一体化する感覚。館内に入ると、平日の開館直後なのに来訪者が思った以上に多いのに驚く。内藤廣の建築は、スケール感や木材の組みの美しさが、他の建築では味わえない居心地の良さを感じさせてくれる。中庭に向かって置かれた4脚の椅子に光が降り注いでいる光景の素晴らしさが忘れられない。この土地の自然の美しさを観賞するための椅子の配置と開口が記憶に強く残っている。1日中いたくなるような気持ち良さについつい長居してしまう。いわさきちひろの作品もとても良かった。
                 

安曇野の大地を全力で走って、ギリギリで電車に乗り込めた。大糸線の昼間は1本逃すと1時間待たなければいけない。松本で乗り換えて、小淵沢駅で下車。中村キース・ヘリング美術館へ。シネマ・ライズに行ったことはあるけど、北川原温の建築をしっかりと時間かけて見るのは初めて。藤森照信とは異なる捉えどころのない外観は、記号的な配置のようで現代美術かのよう。圧巻は「光と影」がコンセプトの展示空間で、最初の闇の空間へ向かう天上の高低差の激しい廊下は、鑑賞者をキース・へリングの世界へ引き込む素晴らしい演出。床斜面と天井高の変化が日常から切り離された感覚を与えてくれる。
        


後は家に帰るのみ。旅行中に何とか本を1冊読み切れた。9時過ぎに東京に戻る。