京都アートウォーク2008へ

京都アートウォーク2008が10月25日から始まった。早速初日に訪れる。
開催期間は10日間と短いながら、京都の高名な建造物を展覧会場とした面白い試み。

何より楽しみにしていたのは、川俣正のサイト・スペシフィック・ワークを初めてその場で鑑賞できることであった。
展示会場は東福寺方丈・通天台。
80年代にはトロント・プロジェクトで「ヴィジュアル・テロリスト」呼ばわりまでされた作家の今回の試みは、通天台の中央にたった一枚の使い古びた座布団を置くことだった。
  
通天台を一人だけで鑑賞できる贅沢の極みのようなこの作品に、僕は相当感動してしまった。その理由は:
・前述のように、何か造形物を展示しているわけでもなく、お寺の座布団をその場に置くだけの『行為』でその空間を普段とは全く異なるものに変えてしまった。若い世代には絶対にできないであろう、約30年間様々なサイトで制作を続けてきた川俣さんだからこそと言えようインスタレーションである。
・京都の名所の一つである東福寺を訪れる純粋な観光客を、もの凄く自然に作品に巻き込んでしまっている。座布団が一枚置かれているだけの行為に対してアート鑑賞しているという意識を持ちはしないだろう。けど、誰もがついつい座布団に座ってしまう、無意識のアート鑑賞。アートレスを掲げる作家ならでは。
・おそらく偶然の産物だと思うが、通天台を鑑賞する為によく分からないながらも人が列をつくっている光景がちょっと愉快だ。一人で通天台を占有できる贅沢の極みであるはずが、座布団に座って存分に観賞しようとするもののどうしたら良いかよく分からず、後ろの人たちが待っている(見られている)ことを分かっているので、何かそわそわしてしまう(と、僕には見えた)。通天台を囲む美しい風景を堪能できたかと言えば疑問ながらも、僕にはとてもユーモアな空間に思えた。それに、観賞することについて改めて考えるきっかけにもなり得るのではないだろうか。
といったことである。時間のある人は、是非観に行ってください。

アートレス―マイノリティとしての現代美術 (ArtEdge)

アートレス―マイノリティとしての現代美術 (ArtEdge)


企画展全体の感想だが、正直ちょっと残念な企画になってしまっている。
キュレーターには海外在住の白石由子を抜擢。参加アーティストも海外から召集したり川俣正だったりと相当お金(税金:後援が文化庁)は使われているはず。
そうした力の入れように反して、広報活動が弱すぎるのではなかろうか。
開催前まで大阪でも京都でもチラシ・ポスター共に全く見る機会がなかったし、僕も川俣正のHPをチェックしていなければ見逃していただろう。
それに、展示方法もいただけない。
この企画展の魅力の一つは、有名観光地での作品展示=ミュージアム・ビジターだけでなく、美術鑑賞を普段しない観光客も巻き込んでいけることが考えられる。
しかし、その利点を上手く作品制作時に取り込んでいるのは川俣さんだけだった。
清水寺経堂の海外アーティストの作品など、僕が訪れた時には誰からの気にもとめられていない残念な状況になっていた。
看板ももっとアイディアがあるように思う。


2011年に期待したい。


最近観た映画
過去のない男」:アキ・カウリスマキは笑わせるのが上手い。すごく人間くさい映画をつくるユニークな監督である。この作品も存分にこの監督の良さが味わえた。

潜水服は蝶の夢を見る」:観るべき映画、感動作。本も近々絶対に読もう。ユーモア溢れるカメラワーク・映像も印象的。